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任務帰りに小鳥を拾った。薄汚れた小さな鳥。その鳥の羽根は、両翼とも無惨にもぎ取られていた。 「大丈夫だ、もうお前を傷つけはしないよ。」 イルカは大事そうに鳥をふところに抱えて走り出した。 「珍しい、イルカ先生がここに来るなんて、どうかしたんですか?」 「修行中にすまないな、サクラ。実は任務帰りにこいつを拾ってな、手当、頼めるか?」 イルカの言葉にサクラは布に包まれた小鳥をそっと手に取った。 「ひどい、両翼とも切り落とされてる。鋭利な刃物で切り落とされたのね、傷口が綺麗だもの。」 暗に獣に襲われた等の弱肉強食の自然摂理ではなく、人がいたずらに傷つけたものだと示した言い方だった。 「傷口は止血して治療したし、生命力を吹き込んだからもう安心よ。でも、翼は元には戻らないわ。この小鳥はもう、」 飛ぶことはできない、と言おうとしてサクラは口を噤んだ。イルカは分かっているよと頷いて見せた。 「うん、ありがとう。いいんだ、生きていてくれれば。お前がいてくれて助かったよ。さすがに口寄せの動物でもない生き物を医療忍に診せるわけにはいかなかったからな。俺の個人的なことに付き合わせて悪かったな。」 「いいの、修行の成果を披露できて却って嬉しい。私も成長してるって見てもらえたから。」 「うん、頼りにしてるよサクラ。お前も一人前の中忍だもんな。」 イルカはサクラの頭をそっと撫でてやった。 「今度ラーメンおごるからな。」 「やだ先生、ラーメンは太るのよ。どうせならオーガニック料理のランチでもおごってくださいよ。」 「お、おがに?よくわからんが俺の月給でまかなえるようなのを頼むぞ。」 くすくすと笑うサクラの手からそっと小鳥を手渡されたイルカは礼を言ってその部屋を後にした。そして受付へと向かった。 「ごつい手で申し訳ないけど我慢してくれよな。サクラみたいにふわふわした柔らかい手だったらもっと気持ちいいんだろうけど。」 そして汚れを落とし、乾いた布で水気をとってやれば、やがて美しい羽毛が現れた。光沢のある乳白色で、今は衰弱してあちこち抜け落ちている部分もあるが、羽根があればさぞやその美しさは何倍にもなったであろうと伺える。しかし今はただ鳥の体がそこにあるだけである。見た目はかなりいびつに見えるものの、鳥は生きようとしている。 「誰がお前を傷つけたんだろうな。羽根がなくともこんなに美しいのに。」 イルカは人差し指で小鳥の頭をそっと撫でた。小鳥は物怖じしないのか、それとも人に慣れているのか、イルカの手を甘受していた。 それからイルカは小鳥と暮らし始めた。小鳥は数日体力を消耗していたのかぐったりとして元気がなかったが、イルカの懸命の世話で少しずつ元気を取り戻していった。そして一週間後にはピィピィと鳴くまでに回復した。 「イルカ、来てくれ。」 慌ててやってきたのにもかかわらず、その声は静かだった。いつもは豪快に笑っているその声が心なしか震えているのは気のせいだろうか。 「カカシさん。」 一本の腕がそこにあった。透明なガラスケースに収まったそれは今にも動き出しそうだった。 「細胞が死滅しないように処置が施されていましたから保存状態がかなりいいです。いつでもこの腕は持ち主の体と結合できるようにしてありますから。」 シズネの言葉にイルカはそうですか、と答えるだけで精一杯だった。この場で崩れなかっただけでもかなりの労力を有した。 「イルカ、これは間違いなく、カカシの腕なんだな。」 アスマの言葉にイルカは頷いた。暗部の入れ墨のない側の腕だった。指先に噛み跡が残っている。最後の逢瀬でイルカが付けたものだ。急なイルカの任務ですぐに起たなければならないからと言えば、昼間からアカデミーの資料室でカカシに強請られて応えた、その名残。まだ日の高い資料室で、声を殺すためにカカシの指を口に含まされて、思ったよりも深く噛んでしまった。 「指の歯形は俺のものです。照合してください。」 イルカの言葉にその場にいた者たちが項垂れるのが分かった。みな、違うと言ってほしかったに違いない。だが、カカシの恋人であるイルカがそうだと肯定しているのだ。カカシの一番身近な人物であるイルカが。認めないわけにはいかない。 「アスマ先生、この腕はどこで、カカシさんは今どちらに。」 アスマは無言でいる。言うわけにはいかないのだろう。中忍のイルカには言えない、きっと大変な事件に巻き込まれているのだ、あの人は。イルカは追求するのを諦めた。 「ご用件は以上でしょうか。」 「ああ、業務中にすまなかったな。」 アスマの言葉にイルカはその部屋から出た。 「カカシさんの腕だ。」 ぽつりと呟いた自分の言葉に戦慄する。 「イルカ、こいつを忘れるなんてお前らしくもない。こいつ、寂しがってたぞ。」 イルカの尋常ならざる様子を言及するでもなく、あくまでいつものように話しかける同僚にイルカは感謝した。下手に慰められたら、発狂したかもしれない。 「すまなかったな、すっかり忘れてたよ。エサやんないとな。」 イルカは小鳥を受け取った。同僚はまた明日な、と言って背を向けた。 「なあ、」 イルカはその背に声をかける。 「俺、一ヶ月有給取るわ。」 イルカの突然の言葉に同僚は驚くでもなくそうか、と呟いた。 「上に報告しとくよ。明日から一ヶ月な。」 「おう、よろしくな。」 淡々と紡がれる言葉の羅列。狂気を食い止めるための会話。 「カカシさんが好きなんだ。どんな姿であってもいい、生きていてくれさえいれば。お前のように空を飛べなくても、忍びでなくていい、あの人がいてくれればなんだっていい。」
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